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第2回 気付きの人?~あの人は電動カートに乗って~

その日は、3月の晴れにもかかわらず風の強い日でした。
風のせいか、陽気にもかかわらず、どちらかと言えば肌寒く感じる昼過ぎのことです。
私は雄大な桜島を眼前に臨む本港区ウォータフロントパークで、明日から開催される物産イベントの準備で、施工業者にいろいろと指示出しをしていました。
作業が遅れがちだったため、少しイライラしながら担当者と話しをしていると
「ちょっと教えてくれんね。保健所は何処?」
と背後から男の声がしました。
振り返ると電動カートに乗り、メガネをかけた50歳前後の男が、やたらデカイ声で携帯で何やら話をしています。

電動カートに「日本1周」の旗を立て、カートのかごには空き缶。何が入ってんだか、と思うくらいの大きなリュックをカートの後ろに乗せていました。
男の風貌はというと、煤けた青の少し痛んだヨレヨレのパーカー。日焼けした浅黒い顔に一昔前のデザインのメガネ。そして中途半端な無精ひげ。
旅人というより放浪という言葉がぴったりのその男は、どちらかと言えばあまり関わりたくないタイプでした。
「何だ電話の話し声か・・・」
そう思い、また担当者と打合せを続けるとしばらくして、
「ちょっと教えてくれんね。保健所は何処?」
もう一度、男の声がしました。振り返ると、男が電動カートを運転しながら私に近づいてきました。
一瞬「俺?!」と思いながら、「この大通りをまっすぐ進んで、電車通りに出たら右折。左手に市役所があるから
そこを左折してください。」
その男に教えてあげました。
「ありがとね。」男は言うと、私の言った方向へ電動カートにのったまま行ってしまいました。
男が去って2分程して私はあることに気付きました。
「保健所って場所変わったんじゃない?」
近くのスタッフに聞いてみると、やはり数年前に変わったとのこと。
「あちゃ~。嘘教えちゃった! どうしよ。」
私は、バタバタしている忙しい状況の中で、男に間違いを伝えに走るべきか考えました。
「わざと嘘教えたわけじゃないし、あんまり関わりあいたくないし。」
「行きがかり上、正しい場所を教えない訳にいかんし。」
どうしたものかと考えた挙句「考えている間に走ればいいんじゃない」
と結局、男を追いかけ走り出しました。
しばらく走ると、男は大通りの交差点の信号で赤信号で止まっていました。
「すみません、私嘘教えてました。」
私は、息を切らしながら正しい場所を教えてあげました。
「アンタいい人やわ。普通こんな事でわざわざ走ってまで教えに来てくれる人おらんよ。」
男は妙に感激し、立ち話ながらも男のことについて話し始めました。
男は東海出身で、数年前から福祉の充実を訴えるために日本1周の旅をしていること。鹿児島に来て一人の友人(知り合い)が出来たが、その友人の急に体調がおもわしくなくなり、友人の担当の保健所のカウンセラーに相談しようとして保健所を探していたこと。などなど。
まだ仕事が残っており、出来ればこれ以上男と関わりあいたくなかった私は、男の話を軽く聞き流し保健所の正しい場所は結構遠いので気をつけるように伝えると、足早に交差点を去りました。
2時間後、日もだいぶ落ち作業のほうも進み一段落していると、先ほどの男が電動カートに乗ってニコニコ笑いかけながら再びやってきました。
「にいちゃん、さっきは本当にありがとうな。結局市役所に行ってそこから保健所に連絡とってもらって。おかげで友達も落ち着いて助かったよ。いまからその友達とその先の足湯で待ち合わせなんだ。俺今日そいつから金借りる予定になっていてな。その金が無いと今夜寝ることが出来んところだった。」
「そう、それは良かった。」
私が相槌を打っていると男は、
「それにしても、あんたは心で話すいい人だ」と私を褒め始めた。
「たいがいの人は、俺と話をする時、目を見ないで話をする。あんたはきちんと俺の目を見て話をした。
つまり、あんたは心で話しをする本当に人間らしい人だ。」と。
「そんなに褒められるほどのことか?」
そう思いながらも褒められて嫌な気分にはならないもの。
「そんなに褒めなくてもいいですよ。」
そう照れながら話しをしていると、
男は「そろそろ友達来るから。」そう言って去っていきました。
それから1時間ほどして、また男がやってきました。
少し離れた場所から私を手招きします。
「なんか嫌な予感」
そう思いながらも男に近づき
「どうしたの?」
問いかけると、
「済まないけど、金貸してもらえんやろうか?」
「キターーーーーーーーッ!」
まさに嫌な予感的中
そして私は・・・
次回に続く・・・