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第6回 気付きの人?~最後の試練~

物産イベントの翌日の月曜日。昨日までの春の陽気がうそのような小雨が降る日でした。おまけに、桜島が久しぶりに噴火し、雨に交じって車はまるで泥をかぶったように汚れていました。
午前11時ごろ、会社の電話が鳴りました。
「電話はいってます。」後輩の女の子に促され受話器を取ると、電話の向こうの声は彼でした。
「この間は、ありがとうね。」
「どうもどうも。」
私は気軽に返答をしました。
「ところでアンタにちょっとお願いがあるんやけど・・・」
「えっまた?」そう思いながらも
「どんなことですか?」
と気軽に聞き返しました。
「この間アンタにも話したけど、月曜日に送金してもらえるって言ったやろ。」
「ええ。」
「わし、銀行口座とか持っとらんで、市役所の口座に振り込んでもらおうと役場にいったんやけど、出来んっていわれてな・・・困っているんよ。」
(そりゃそうでしょ・・・普通役場ってそんなことしないって・・・)
そう思っていると、
「そこで、アンタの少し口座貸してもらえんやろうか?」
(えっ・・・何・・・マジで・・・)
(確かに貸したお金を返してくれた、今や信用できる人なのかもしれない。でも、普通銀行口座って普通貸さないよね・・・
って言うか、もし振り込め詐欺みたいな犯罪の片棒をかつぐ羽目になったら、ほんと洒落にならんし・・・
実は金を一旦返して安心させといて、本当の目的は口座を借りることだとしたら・・・
人を信じたつもりが、お人よしを通り越して犯罪者にまでなっちまったら・・・)
いろんな考えがぐるぐると私の頭の中をめぐりました。
「通帳とか会社に持ってきていないし、少し難しいかもしれないけどとりあえず、もう少し詳しく教えてください。」
そう言うと、彼は事情を話し始めました。
「鹿児島に来る前に大分に云ったんよ。細かい地名は忘れたが、ちょうど行ったとき海の近くでお祭りやっててな。わし、ちょっと目立ったろう思って、海に飛び込んだりしたんよ。そしたら、それを見ていたAさんという女の人が、「あんた面白いな・・・泊まると無なかったらうちの駐車場にテント張りなさい。」って言うてくれてしばらくやっかいになったんよ。
そこを出る時、その人が何か困ったら連絡しなさい言っとったんで、先週末電話したんよ。そしたら2万円くらいなら都合をつけられるって言うて、それで、その人が振り込む講座を借りれたらいいんやけど。」
せめて身内の方からの入金かと思っていたら、以前たまたま出会った人にお金の都合をお願いしていたらしい。
それにしても、「何か困ったら連絡しなさい。」と言ったとはいえ、本当にお金を振り込む人がいるのだろうか・・・
そう思っていると、
「お願いでできんやろうか・・・」
と、彼は言ってきた。
実は普段あまり使わない通帳をたまたま会社に持っていることを思い出した私は、「万一の時は、なるようになるさ」と思い、
「じゃあ何とかしましょう。で口座番号を調べてあなたに言えばいいの?」
と答えると、
「あんたの携帯番号を、その女の人に教えるから。そのお人からあんたに電話かけてもらって、その時に口座番号を教えてもらっていいやろうか。」
(見ず知らずの人に携帯番号を教える?)
なんか、どんどん深みにはまっていくような気がしましたが、少しあきらめ加減で
「いいですよ。一昨日渡した名詞に携帯番号載ってるから。」
と答え、電話を切りました。
30分ほどして、見覚えのない番号の電話がきました。電話を取ると、初老の女性の声がしました。
「すみません。Aと申しますが、先ほど電話がありまして、そちらの口座番号に振り込んでくれって言われたものでしたから、話を聞くとあなたにいろいろと優しくしていただいたようで、本当にありがとうございます。」
まるで彼の身内の人からの電話のような感じに、赤の他人のAさんにそう言わせてしまう彼の不思議さを感じました。
「すみませんけど口座番号教えてもらえますか?」彼女に言われ私は口座番号を教えました。
彼女は「振り込んだらまた電話します。」そう言うと電話を切りました。
それから4、50分ほどして彼女からまた電話が来ました。とても明るい声で「今振り込みました。急だったんで1万5千円しか用意できなかったけど、まあ大丈夫でしょう。そのように彼に伝えてください。ではよろしくお願いします。」
そう言うと彼女は電話を切りました。
わたしは直ぐに銀行に向かい、口座に振り込まれたお金をおろし、彼との待ち合わせ
場所に行きました。
彼はベンチに座って、人と話をしていました。近づいてくる私に気づくと、とても嬉しそうな顔をして
「いやー今この人に、あんたの話をしてたところや」
そう言いました。
私は、「銀行からお金下ろしてきましたよ。」と言いながら銀行の封筒を見せました。
彼はほんの一瞬困ったような顔をしましたが、すぐに「ほんとすまんね。」と言いました。
彼と話していた人は、「どうも。」と言うと、私たちのそばからすっと離れていきました。
「Aさんが、1万5千円しか用意できなかったって言ってましたよ。」
そう言い、彼にお金の入った封筒を渡しました。
「えっ、2万円じゃないの?」
彼はそう言いながら、困ったような顔をして私を見ました。
「一応通帳を見せますね」
私はそう言い通帳の記帳されたところを見せましたが、彼の本当の気持は薄々感づいていました。
案の定、
「今夜フェリーに乗って島に渡るつもりなんやけど、乗船券買ったらお金があんまり残らん。
どうしよう?少し都合つかんやろうか?」
彼はそう言ってきました。
しかし、返してもらったお金は、物産展で出ていた菓子やイチゴ、海産物など家族へのお土産で
使ってしまったため、財布にほとんど現金がなかったことと、いい加減勘弁してほしい気持から、
「ごめん。今あんまり手持ちがない。」
私が言うと彼は、
「そうか。こっちこそごめんな。いろいろしてもらって。」
そう言って笑いました。
「じゃあ、会社戻ります。気をつけて行ってください。」
彼に言うと、
「ホントいろいろとありがとうな。アンタは本当の友達や。」
そう言いながら握手を求めてきました。
「また何かあったら電話ください。」
私は言うと、車のほうに歩き出しました。
車を運転していると、いつしか空は明るく、日が射しはじめ昨日のような穏やかな天気になっていました。今思えば、本当に不思議な人との出会いでした。彼のおかげで、口で言う以上に「本当に人を信じることは難しい」ということに気付かされたと思います。